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続あしながおじさんと優生学

あし2- 

【続あしながおじさんと優生学】

 「続あしながおじさん」には現代からみると、精神疾患や遺伝子疾患への誤った知識や差別的表現などが数多くあります。

 出版当時1910年代の人達の価値観ではこれは普通に考えられていた事で簡単にいうと「優生学」という思想が根本にありました。

……優生学とは?


「人間の性質を規定するものとして遺伝的要因があることに着目し、その因果関係を利用したりそこに介入することによって、人間の性質・性能の劣化を防ごうとする、あるいは積極的にその質を改良しようとする学問的立場、社会的・政治的実践を指します。」



 これを象徴する「カリカック」という本が作中出てきており、これは当時の学会でも擬似科学とされていたものですが、この時代の人達には受け入れられでいました。

 この本をマックレイ医師から進められたサリーはこの本に感化されこのようなことを書きます。

「続あしながおじさん」本文より
 マーチン・カリカックと呼ばれる若い紳士が、ある晩泥酔して、
ほんのでき心である酒場の精神薄弱な女給と駆落ちをしました。
 それがここに精神薄弱系カリカック家の連綿と続く血統の本源
が作られて―のんだくれ、ばくちうち、売春婦、馬盗人―などが
ニュージャージーとその周辺の各州の悩みの種になったのでした。
 
(続あしながおじさん松本恵子・訳新潮文庫104P)


 主人公のサリーが随所でこういう差別的発言を繰り広げていますし、犯罪者の子供は犯罪者とか言い切っていますしね。

 もちろんサリーは孤児院を運営しているのでそれを分かった上で、孤児たちにをどう教育するのかを考えているのですが、根っこのところに優生学的な考えが出てきます。

 こういう考えを元にサリーの考えた精神疾患者に対する対策は下記のようになるのでしょう。

「続あしながおじさん」本文より
 精神薄弱は非常に遺伝的素質のもので、科学もこれには抗
しがたいようです。脳味噌のたりない子供の頭に脳味噌を詰
め込む手術はまだ発見されておりません。
 そういう遺伝をうけている子供は、たとえば九歳の頭脳を
持ったままで、身体だけが三十歳なら三十歳なみに成長する
という訳です。
それで彼はたまたま出会った犯罪者の手先に使われるように
なるのです。わが国の刑務所が収容している囚人の三分の一
は精神薄弱者なのです。
 社会で精神薄弱児園を作りそこにそういう子供たちを隔離
して、そこで平和な召使のような仕事を覚えさせ、それによっ
て生活費を得させ子供を生ませないようにすべきだと思います。
 そうすれば一世代か二世代のうちに社会から精神薄弱児
をなくしてしまえるかもしれません。

(続あしながおじさん松本恵子・訳新潮文庫104P)


 精神薄弱者は隔離し生きるだけの生活をさせ子供を生ませないようにする… 現代人からみると引いてしまう考え方。

 しかし当時はアメリカは優生学思想を積極的に推し進めた国でもありますし断種法は全米30州で制定され、約12000件の断種手術が行われ、絶対移民制限法(1924年)は、

「劣等人種の移民が増大することによるアメリカ
社会の血の劣等化を防ぐ」


 ことを目的として制定されましたが人種差別思想をもつ法は、公民権運動が盛んになった1965年になって改正されました。優生学は単に思想的な問題ではなく科学的にも真剣に議論され国の政策に反映された考えでした。

 これはアメリカ、ヨーロッパ、日本、その他の国々で色々な形で政策として実地されているので、サリーの言っている事は当時の人達からはそれほど奇異な考えではありませんでした。


…しかしこの「優生学」は現代人から見ると危うく危険な考え…特に人間の性質を規定するものとして「遺伝的要因があることに着目し人間の性質・性能の劣化を防ごうとする」というのは一歩間違うと危険極まりないです。

 というよりこの「優生学」の考え方を推し進め、実行した人物が20世紀のヨーロッパのドイツに現れます。

それがアドルフ・ヒトラーです。

 ヒトラー率いるナチスドイツはユダヤ人はもとより精神、身体障害者、同性愛者まで抹殺しました。「優生学」がこれらジェノサイドに科学的な裏付けを与えてしまったのは事実でしょう。

 人々にある他人種に対する差別感情が、「優生学」の考え方を後押ししたという面もあります(日本人も例外ではないです)

ヒトラーは唐突に現れたわけではないのです。

 このような惨事が戦後明らかになり、優生学は一転批判の対象になり国の政策に反映される事はありませんでした。

 「続あしながおじさん」からヒトラーとは少し飛びすぎていますが、1910年代の人達の考え方を知る上でも「続あしながおじさん」は読んでみる価値はあると思います。







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