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続あしながおじさんと優生学

あし2- 

続あしながおじさんと優生学
 「続あしながおじさん」には現代では、精神疾患や遺伝子疾患への誤った知識や差別的表現などが数多くあります。

 出版当時1910年代の人達の価値観では、これは普通に考えられていた事で、簡単に言うと「優生学」という思想が根本にあります。

【優生学とは?】
 人間の性質を規定するものとして遺伝的要因があることに着目し、その因果関係を利用したりそこに介入することによって、人間の性質・性能の劣化を防ごうとする、あるいは積極的にその質を改良しようとする学問的立場、社会的・政治的実践を指します。ここでいう「遺伝的要因による人間の劣化」として想定されているものは、遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患、遺伝性奇型、精神病、精神薄弱などです。つまり、障害者や精神病患者などは遺伝によって子孫にも影響して人間の質を劣化させると考え、劣悪な遺伝子を持つ人々が子孫を残すことを抑制し、優良な遺伝子を持つ人々の子孫を増やしていこうとする研究視点や政策実践のことを指します。


 これを象徴する本が「カリカック」という本が作中出てきます。これは当時の学会でも擬似科学本されていたようですが、この時代の人達には受け入れられた本です。

 この本をマックレイ医師から進められたサリーはこの本に感化されこのようなことを書きます。


「続あしながおじさん」本文より
 マーチン・カリカックと呼ばれる若い紳士が、ある晩泥酔して、ほんのでき心である酒場の精神薄弱な女給と駆落ちをしました。
それがここに精神薄弱系カリカック家の連綿と続く血統の本源が作られて――のんだくれ、ばくちうち、売春婦、馬盗人――などがニュージャージーとその周辺の各州の悩みの種になったのでした。
 後日マーチンは心を入れかえて、まともな婦人と結婚して、正常なカリカック家の第二の血統を作り、そこから裁判官、医師、農業家、大学教授、政治家など、国の誇りとなるような 人物が出ました。
そしてこの二つの系統が相並んで、今日もなお子孫が続いているのだそうでございます。
もしもその精神薄弱な酒場女が赤ん坊の時に、何か恐ろしい災害に遭っていたら、ニュージャージー州にとって、どんなに幸いだったかしれませんわね。

(続あしながおじさん松本恵子・訳新潮文庫104P)

 ヒロインのサリーが随所でこういう差別的発言を繰り広げていますし、犯罪者の子供は犯罪者とか言っていますしね。

 もちろんサリーは孤児院を運営しているのでそれを分かった上で、孤児達をどう教育するのかを考えています。

 精神疾患の遺伝を持った子供も変えられると思っていますが、根っこのところに優生学的な考えが出てきます。

 こういう考えを元にサリーの考えた精神疾患者に対する対策は下記のようになります。


「続あしながおじさん」本文より
 精神薄弱は非常に遺伝的素質のもので、科学もこれには抗しがたいようです。
脳味噌のたりない子供の頭に脳味噌を詰め込む手術はまだ発見されておりません。
そういう遺伝をうけている子供は、たとえば九歳の頭脳を持ったままで、身体だけが三十歳なら三十歳なみに成長するという訳です。
それで彼はたまたま出会った犯罪者の手先に使われるようになるのです。
わが国の刑務所が収容している囚人の三分の一は精神薄弱者なのです。
社会で精神薄弱児園を作りそこにそういう子供たちを隔離して、そこで平和な召使のような仕事を覚えさせ、それによって生活費を得させ子供を生ませないようにすべきだと思います。
そうすれば一世代か二世代のうちに社会から精神薄弱児をなくしてしまえるかもしれません。

(続あしながおじさん松本恵子・訳新潮文庫104P)

 精神薄弱者は隔離し生きるだけの生活をさせ子供を生ませないようにする。 現代人からみると引いてしまう考え方ですよね。

 しかし当時はアメリカは優生学思想を積極的に推し進めた国でもありますし断種法は全米30州で制定され、約12000件の断種手術が行われ、絶対移民制限法(1924年)は、

「劣等人種の移民が増大することによるアメリカ社会の血の劣等化を防ぐ」

 ことを目的として制定されましたが、人種差別思想をもつ法は、公民権運動が盛んになった1965年になって改正されました。優生学は単に思想的な問題ではなく科学的にも真剣に議論され国の政策に反映された考えでした。

 これはアメリカ、ヨーロッパ、日本、その他の国々で色々な形で政策として実地されました。

 サリーの言っている事は現代人から見ればとんでもない差別的考えに見えますが、当時の人達からはそれほど奇異な考えではありませんでした。

 しかしこの優生学は現代人から見ると危うく危険な考えに思えますよね。

 とくに人間の性質を規定するものとして遺伝的要因があることに着目し、人間の性質・性能の劣化を防ごうとする、あるいは積極に改良しようというのは一歩間違うと危険極まりないです。

 実際この考えを推し進め実行した人物がヨーロッパのドイツに現れます。

アドルフ・ヒトラーです。

 ナチスはユダヤ人はもとより精神、身体障害者、同性愛者まで抹殺しました。 優生学がジェノサイドの科学的な裏付けを与えたようなものです。

 人々にある他人種に対する差別感情が優生学の考え方を後押ししたという面もあります(日本人も例外ではないです)アドルフ・ヒトラーは唐突に現れたわけではないのです。

 戦後になり優生学は批判の対象になり国の政策に反映される事はありませんでした。

 「続あしながおじさん」からヒトラーとは少し飛びすぎています1910年代の人達の考え方を知る上でも「続あしながおじさん」は読んでみる価値はあると思います。






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COMMENT

広島県のTさん、こんばんは。

>解説本みたいな本を読んで物語の真相を知りました。
広島県のTさんが紹介していた「少女小説から世界が見える」読みました。

>ドクターとくっつけたい作者の意図を感じてました。
そういうところを考えて読むと面白いかもしれません。

>ここら辺の時代背景はしっかりと解説が必要な気もします。
自分もどうしても「続あしなが」読むとこの問題があったので取り上げました。

>僕がこんな話を紹介するとどうも嫌味的な紹介になると思います。
書いても普通に大丈夫だと思いますよ(^^

ではでは

| はぎ | 2010/03/28 17:45 | URL | ≫ EDIT

この記事が出るとは予想してませんでした。(さすがです。)

僕も以前「続あしながおじさん」は2回読んでどうもしっくりこなかったので、解説本みたいな本を読んで物語の真相を知りました。
本当に時代を感じます。
途中なんでサリーが好きだった恋人みたいな人が悪人に描かれているんだろって思ってました。
なんかドクターとくっつけたい作者の意図を感じてました。
ここら辺の時代背景はしっかりと解説が必要な気もします。
そういえば白黒の第2次大戦の裁判映画を見てると、本当にそういう時代だったようです。
ところではぎさんはこういう話をサラッと紹介できるので素晴らしいですね。
僕がこんな話を紹介するとどうも嫌味的な紹介になると思います。

| 広島県のT | 2010/03/28 07:41 | URL | ≫ EDIT

limさんこんばんは。

>このブログの構成も読みやすく何処かの出版社のコラムみたい。
それなりに書けたのかな?

>続編をアニメ化するときはこの辺は大幅カットですね(笑)
続編を読むとアニメにするとこの辺りは完全にカットですよね(^^

>20年くらい前の古い週刊誌の広告とか面白いですよ。
今見ると、怪しげなのが多いですね。
いつの時代もそうなのかな?

>紅茶キノコは私も飲んでました(笑)。
懐かしい、アレは今どうなったのでしょう(笑

ではでは

| はぎ | 2010/03/27 01:03 | URL | ≫ EDIT

時代が反映しているんですね。

こんばんは。興味深い記事ですね。このブログの構成も読みやすく何処かの出版社のコラムみたい。続編をアニメ化するときはこの辺は大幅カットですね(笑)。 オカルトや迷信もどうかと思いますが、科学(比較実験が無いので科学じゃないけど)も妄信すると怖いですね。現在でも似た様な事を言う人が居ますよね。話は横道にそれますが、20年くらい前の古い週刊誌の広告とか面白いですよ。その後裁判沙汰になったり、害があるものだったり。その時はみんな正しいと思っているんですね。紅茶キノコは私も飲んでました(笑)。

| lim | 2010/03/27 00:13 | URL | ≫ EDIT















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